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大田区に住むビールオタクのblog

Black Is Beautiful -クラフトビールとチャリティー活動、社会運動-

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Black Is Beautiful/京都醸造

 京都醸造Kyoto BrewingBlack Is Beautifulを飲みました!

Black Is Beautifulはいわゆる「黒ビール」と呼ばれる濃色のビールで、Stoutスタウトという上面発酵(エール)タイプのスタイルのビールだ。焙煎した麦芽か、そのままの大麦を焙煎したものを使用して醸造するビールで、ローストされた麦の香ばしさと、コーヒーやチョコレートのニュアンスの風味が味わえる。スタウトで一番有名なのは何といっても、アイルランドのドライなタイプのスタウト「Guinessギネス」だろう。

アルコール度数を高く作っているスタウトを特にImperial Stoutインペリアルスタウトというスタイル名でも呼ぶ。Black Is Beautifulのアルコール度数は10.0%なので充分インペリアルスタウトだ。

 

チャリティー活動としてのBlack Is Beautiful

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Black Is Beautiful/Revision Brewing @アンテナアメリカ横浜店。日本国内で飲めるアメリカのブルワリーによるBlack Is Beautifulは、今のところこのRevison Brewingによるものだけのようだ。

ところで、Black Is Beautifulのレシピは京都醸造オリジナルのものというわけではない。アメリカ合衆国テキサス州のブルワリーWeathered Souls Brewingが公開したレシピに基づいて醸造している。Weathered Souls Brewingは公開したBlack Is Beautifulのレシピを使用するブルワリーに、得られる収益を人権的に不当な扱いを受けた個人や、平等・共生社会を目指す地元の団体へ寄付するよう求めている。 Black Is Beautifulはチャリティー活動としての性格を持つ、全世界のブルワリーが参加できるコラボレーション企画のビールなのだ。2020年8月の時点で20ヵ国1100以上のブルワリーがこのプロジェクトに参加している。

京都醸造がなぜBlack Is Beautifulに参加したかは、彼らのブログに書かれているのでぜひ読んでみてほしい。

Black is Beautiful世界中のコラボ - パート1 – Kyoto Brewing Co. - Online Store

Black is Beautiful世界中のコラボ - パート2 – Kyoto Brewing Co. - Online Store

Black is Beautiful世界中のコラボ - パート3 – Kyoto Brewing Co. - Online Store

 

クラフトビール業界では近年、Black Is Beautifulと同じ形式のコラボレーションビールの例が他にもいくつかある。

2018年のカリフォルニア州の山火事による被害への支援を目的として、カリフォルニア州のブルワリーSierra Nevada Brewingが特別醸造したIPAビールのレシピを公開したResilience Butte County Proud IPA。この企画には日本からは川崎市のブルワリーブリマーブルーイングBrimmer Brewingが参加した。

今年の春には、現在も続いているCOVID-19コロナ禍の影響で収入を減らした飲食業就業者への支援を目的としたAll Togetherというプロジェクトもあった。ニューヨークのOther Half Brewingがレシピを書いている。All Togetherには日本からも多くのブルワリーが参加した。皆さんもどこかで白地に環状で"All Together"と黒字で書いてある缶やボトルのラベルを目にしたことがあるかもしれない。

 

社会運動としてのBlack Is Beautiful

 Black Is Beautifulには他のレシピ公開型コラボレーションビールと違っている点がある。それは「チャリティー活動」としての性格とは別に、もう一つ「社会運動」としての側面も持っていることだ。

 Black Is Beautifulには、様々な肌の色を持つ人々が日々直面する不正義への関心を持ってほしい、という社会的なメッセージが込められている。もちろんアメリカでのアフリカ系アメリカ人に対する警察の残虐行為への抗議行動、Black Lives Matter運動からの影響も少なからずあるだろう。Black Lives Matterを受けてのクラフトビール業界からのレスポンスと言えるのかもしれない。

 

こうした「啓発ビール」「抗議ビール」ともいえる種類のビールは、Black Is Beautifulのような大規模なコラボレーション企画では珍しいが、ビール単体としてならしばしば世に出てくる。中でもメッセージ性のあるビールをいくつもリリースするブルワリーといえば、スコットランドBrewDogブリュードッグが挙げられるだろう。

例えば2017年にリリースした、世界各国の気候変動への対策を取り決めるパリ協定からの離脱を表明したトランプ政権のアメリカ政府への抗議Make Earth Great Again。2013年に同性愛宣伝禁止法を制定したロシアのプーチン大統領への抗議Hallo My Name Is Vladimirなど。PunkというIPAが一番有名なBrewDogは、過激な政治的メッセージビールを発信し続けるパンクな集団だ。

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Make Earth Great Again。某大統領そっくりなロボットと絶滅危機に瀕したホッキョクグマが闘っているイラストのラベル。

プロスポーツ選手が社会運動への賛意を表明するだけで非難が起こるような国に住んでいる我々からすると少々面食らう話しかもしれないが、一杯のビールから発せられるのは時に炭酸の泡やホップのフルーティーなアロマだけではなく、社会に参加する我々一人一人に向けてメッセージが発せられることもある。

 

 

ちなみにBlack Is Beautifulを飲んだ感想。木炭と胡椒のような香りがして、ナッツのような豆類と麦芽とが合わさって醤油味感すらある複雑な味わいだった。これは黒い色にも多様な色味があるというBlack Is Beautifulの理念にとても合っているんじゃないかと思いました。